あめる

今日は午後から少しばかり蒸し暑い気候になった。明日は雨になるらしい。いよいよ本格手な梅雨に入り、食べ物は常に冷蔵庫へ入れることになる。

 

私の故郷では、食べ物が腐敗してしまうことを「あめる」と言う。自然に腐るものではなく、調理した料理が時間が経って腐った状態を指して言う。梅雨時から真夏にかけて、父がこの言葉を連発するものだから、自分が使わなくても自然に覚えてしまった。父は匂いの微妙な変化に気づき、「これ、あめでる」(これは腐っている)と言い、そういう物には一切箸をつけなかった。炒め直したり味つけを変えても、匂いに敏感な父は気がつくのだった。

 

「あめる」という言葉は、梅雨時にはあちこちから聞こえてくるので、私は「雨」からくる言葉なのかと思ったのかもしれない。今でも梅雨時になると、この「あめる」を思い出す。朝、お弁当を作りながら「もうそろそろ保冷剤を入れないと、おかずがあめる」と、懐かしい言葉が胸によみがえり、寂しくなったりすることがある。

 

懐かしい方言を聞くと、心は遠い故郷を想い、出来る事なら時間を巻き戻してあの頃に戻りたいと思う。父が「これ、あめでる」と言いながら眉間にしわを寄せたあの日、あの時に戻りたい、と思う。